曹洞宗とは
曹洞宗は、現在は800万人ほどの信徒を持ち、寺院は日本全国に1万5千寺ある、長い歴史を持つ宗派です。禅宗五家の内のひとつで、曹洞宗の他には潙仰宗、臨済宗、雲門宗、法眼宗があります。
大本山は、神奈川県の總持寺(そうじじ)と福井県の永平寺(えいへいじ)です。
曹洞宗は鎌倉時代に始まりました。
鎌倉時代中国に渡り、天童如浄(てんどうにょじょう)に師事した道元は、お釈迦様の時代から継承されてきた「正伝の仏法(しょうでんのぶっぽう)」を日本に伝えます。
その後、瑩山禅師(けいざんぜんじ)が「正伝の仏法」を拠り所とし、曹洞宗を日本全国に広め、曹洞宗は地方の武士や民衆に広く受け入れられていきました。
曹洞宗の修行は、「只管打坐(しかんたざ)」という坐禅修行が重視されています。
「只管打坐」とは、坐禅をする姿そのものが「仏の姿」であり、悟りの姿と考え、「身心脱落」つまり無我の状態を目指すものです。
経典は、
「修証義(しゅしょうぎ)」
「摩訶般若波羅蜜多心経(まかはんにゃはらみったしんぎょう)」
「妙法蓮華経観世音菩薩普門品(みょうほうれんげきょうかんぜおんぼさつふもんぼん)」
「妙法蓮華経如来寿量品(みょうほうれんげきょうにょらいじゅりょうほん)」
「舎利礼文(しゃりらいもん)」などがあり、これらは「正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)」や「伝光録(でんこうろく)」「永平広録(えいへいこうろく)」などの宝典を基に編集したものです。
曹洞宗の葬儀の特徴
曹洞宗における葬儀の意義は、故人がお釈迦様の弟子になる、すなわち仏弟子になることにあります。
そのため葬儀では、仏弟子になるために必要な「戒名」や、仏が定めた「戒法」を授かる「授戒(じゅかい)」を前半の儀式で行い、悟りを開くため仏の世界へ導く「引導(いんどう)」の儀式を後半で行います。
曹洞宗は特有の儀式が多く、他の宗派と比較すると長い時間がかかるのも特徴です。
儀式のひとつに、出棺の時に行われる「鼓鈸三通(くはつさんつう)」という儀式があります。
この儀式では、3人の僧侶がシンバルに似た「鐃祓(にょうはつ)」と、持ち手のある鐘の「引磐(いんき)」、太鼓を打ち鳴らし、故人を仏の世界へと盛大に送り出します。
その他にも、曹洞宗の巡拝者が、お釈迦さま、道元・瑩山両祖様を讃え、ご先祖様を敬う心を曹洞宗の御詠歌「梅花流御詠歌」で唱える場面があります。
曹洞宗の葬儀の流れ
曹洞宗の葬儀には特有の儀式が多くあります。
ここでは曹洞宗の葬儀の一般的な流れをご紹介します。
1. 剃髪(ていはつ)
導師(引導を渡す僧侶)が、出家の儀式で唱える偈(げ)を唱え、故人の髪の毛を剃り落とします。
実際に髪の毛を剃ることもありますが、一般的に髪の毛は剃らず、剃る動作をするに留まります。
2. 授戒(じゅかい)
授戒では以下の5つ儀式を行います。
・懺悔文(さんげもん):故人のこれまでの行いを振り返り反省し、成仏することを願います。
・洒水(しゃすい):清らかな水で故人を清めます。
・三帰戒文(さんきかいもん):仏の教えを守り、修行者に帰依して世の中のために尽くすことを誓います。
・三聚浄戒(さんじゅうじょうかい)、十重禁戒(じゅうじゅうきんかい):導師が棺や位牌に法性水という水をかける酒水灌頂(しゅすいかんじょう)を行います。
・血脈授与(けちみゃくじょうじゅ): お釈迦様から故人までの法の系図が書かれたものを血脈(けちみゃく)と呼び、これを霊前に供えます。
3. 入棺諷経(にゅうかんふぎん)
僧侶が「大悲心陀羅尼(だいひしんだらに)」の読経と、「回向文(えこうもん)」を唱えます。回向文とは、仏教において法要の最後に唱える文章のことです。
参列者はこの時に焼香を行います。
4. 龕前念誦(がんぜんねんじゅ)
僧侶が棺の前で「十仏名(じゅうぶつみょう)」と回向文を唱え、故人が悟りの道を進むことを祈ります。
5. 挙龕念誦(こがんねんじゅ)
僧侶が「大宝楼閣陀羅尼(だいほうろうかくだらに)」を唱えながら、仏具を鳴らし、邪気を払います。
この儀式を「鼓鈸三通」と呼びます。
6. 引導法語(いんどうほうごう)
僧侶が故人の生前を自作の漢詩で表し、松明を模した法具または線香を使って円を描き、悟りの世界へ故人を送り出します。
次に、払子(ほっす)という馬の尾や麻を束ねた筆のようなもので邪気と迷いを払い、最後に「喝」と大きな声を出して故人を激励します。
7. 山頭念誦
仏弟子となった故人の仏性の覚醒を願い読経します。
「山頭」とは火葬場、土葬の場合は墓地を指す言葉です。
8. 出棺、荼毘
棺に生花や思い出の品を入れた後、回向文を唱えます。
また、この時も鼓鈸三通の儀式を行い、出棺します。火葬前にご焼香し、火葬後は収骨をして初七日の式場へと移ります。
9. 初七日法要
初七日法要とは、故人が極楽浄土へ行けるよう供養するための儀式です。
本来であれば、亡くなった日を1日目として7日目に法要を行います。
しかし、最近では葬儀や火葬後すぐに行われる「繰り込み法要」や「繰り上げ法要」が一般的になってきました。
曹洞宗の焼香のマナー
曹洞宗の葬儀では、焼香は基本的に2回行いますが、場合によっては1回で済ませるよう指示されることもあります。
曹洞宗における焼香の基本的なマナーは以下の通りです。
1. 焼香台の前でご本尊や位牌、遺影へ合掌し、一礼します。
2. 右手の親指、人差し指、中指の3本の指でお香を1つまみしてから、左手を右手の下に添え、額に軽く押しいただいて、香炉にくべます。(主香)
3. 2回目は、1回目よりも少なめのお香をつまみ、額には押しいただかずに香炉にくべます。(従香)
4. ご本尊、お位牌、遺影を再度見て、数珠を手にかけ合掌、一礼をします。
なお、焼香の形式は3通りあります。
以下では、立礼焼香、座礼焼香、回し焼香について解説します。
立礼焼香
着席形式の式場で行われる形式で、最も一般的な方法です。焼香台の手前で止まり、遺族と住職に一礼します。
その後、遺影に合掌して一礼し、焼香台に進んで焼香します。最後にもう1度合掌し、遺族に一礼して戻ります。
座礼焼香
座礼焼香は基本的には立礼焼香と同じですが、立ち上がらずに膝で進みます。
この際、数珠は左手に持つようにします。
回し焼香
回し焼香は会場が狭い場合に用いられる焼香で、立礼焼香や座礼焼香とは異なり、自分が焼香台まで行くのではなく、焼香炉が回ってきます。
回ってきた焼香炉を自分の前に置き、焼香を済ませて、隣の人に焼香炉を回します。
席が椅子の場合は自分の膝の上に焼香炉を乗せます。
まとめ
曹洞宗の基礎知識と、葬儀の意義、流れ、焼香時のマナーについてご紹介しました。
曹洞宗の葬儀は、故人がお釈迦様の弟子になるための重要な儀式です。
禅宗ならではの荘厳な空気の中で執り行われる葬儀では、正しいふるまいでしっかりと故人の見送りをしたいものです。
なお、同じ曹洞宗であっても、お寺や地域によって流れや作法が異なる場合があります。
疑問点や分からないことは葬儀社や住職に確認することをおすすめします。