納棺の儀とは?
納棺の儀とは、ご遺体の身体を清めて衣装を変え、メイクなどを施し、きれいにしてから棺に収める儀式を指します。
自宅で人を看取ることが多かった昭和初期までは、遺族が自宅で当たり前にしていたことでした。
病院で人が亡くなることが多くなった現代では、病院の職員が手掛けたり、葬儀業者が業務の一環として施したりすることもあります。
映画『おくりびと』で納棺師の仕事の認知が広まりましたが、業者によってやり方は様々です。
多くの場合は家族の協力を仰ぎながら進めていきますが、一人の納棺師が指導することもあれば分業制の場合もあります。
納棺の流れ
人が亡くなるとまず死亡診断書が書かれます。
ご自宅で亡くなられた場合も必ず医師に連絡して書いてもらいます。
医師による死亡診断書があって初めて法律的に人の死が証明され、火葬や納骨申請、納棺の儀の開催も可能になります。
診断書が書かれた後の納棺までの流れを見てみましょう。
末期の水
まず「末期(まつご)の水」を施します。
故人があの世で喉の渇きにあわないようにと願いを込め、唇に水を含ませる慣習です。
末後の水はある逸話に由来します。
仏陀が亡くなる際、喉が乾いたから水が欲しいと弟子に望みましたが、川の水が濁っていたため飲ませることができませんでした。
そこに現れた鬼神が鉢に汲んだ清らかな水を捧げたところ、水を飲んだ仏陀は安らかに旅立つことができたとされています。
逸話どおり、そもそもは臨終の前に行っていたことでしたが、延命技術が伸び「臨終直前」という判断が難しくなっているため、昨今では臨終後に行われます。
病院では看護師さんが末期の水の用意をしてくれていますが、茶碗などに水を汲み、割りばしではさんだ清潔な脱脂綿やガーゼ(割りばしに糸でくくりつける場合もある)に水を含ませ、故人の唇を潤します。
左から右へ、上下の唇を軽くなぞるだけで十分です。
沢山の遺族にしてもらうことが良いとされ、関係の近かった親族から順に行います。
死化粧またはエンゼルメイク
親族全員からの末期の水が終わったら顔を拭きます。
水をしぼった新しいガーゼを用意し、まずおでこから拭きます。
末期の水の時と同じように左から右へ、そして鼻筋を上から下に拭き、顎を左から右に拭きます。最後に頬を左右に拭きながら、「お疲れ様でした」などと故人をねぎらう言葉を優しくかけましょう。
エンゼルメイクとは、顔のメイクだけでなく爪を切る、身体を清めるなど遺体をきれいにする全ての動作のことを指します。
病院では看護師さんがやってくれる場合もありますが、遺族が率先して実施してみましょう。
故人をいたわりエンゼルメイクを施すことで、家族自身の心のケアにもなります。
どんなに献身的に看病していても、死後には悔いが残るのが身内です。
それが「最後に爪を切ってあげた」「最後に髪を梳かしてあげられた」という行為で自身の心を癒すことにも繋がるのです。
顔はホットタオルで温めた後、故人が男性の場合は髭剃りをします。
その後は、手にとって柔らかくしたワセリンなどをお顔全体に広げ、死後の乾燥を防ぎます。女性ならばその上にファンデーションや眉、口紅を塗りますが、ここでも身内が率先してやって構いません。
納棺師に任せると、見た目は綺麗でも「こんな顔じゃなかった」という印象になる場合もあります。
故人が使っていた化粧品を用意できるのも身内ならではで、面影を思い出しながら最後のメイクをすることができます。
最後に髪を梳かして終了です。
死装束
死後の「エンゼルケア」に力を入れる病院は増えています。
故人に刺さっていた滴の針や治療のチューブなどは、死後に痛みや感情がないとしても、看護師さんが優しく取ってくれると遺族とはありがたいものです。
医療器具を外したら、次に故人の着替えを行います。
多くの仏式では巡礼者または修行僧の白い衣装を着せますが、伝統にこだわらなければ、故人が好きだったドレスや思い出のセーターなどに着替えさせても構いません。
病院はあらゆる宗派に対応しており、取り急ぎ浴衣に着替えさせることが大半です。
その場合、遺体が自宅に運ばれてから、納棺師が故人を死装束に着替えさせて納棺することになります。
ご遺体の衣服を替えるのにはコツがいるため、着替えは納棺師の方にお任せした方が良いでしょう。
納棺
身支度が済んだら、遺体を親族全員で支えて、仰向けのままゆっくりと棺の中に収めます。
親族全員で故人のためにできる最後の共同作業です。
支える手が多い方がご遺体も喜ぶでしょう。
副葬品についての注意点
ご遺体を納棺したら、仏式では冥土へ旅立つ副葬品として杖とわらじを収めます。
これは棺と一緒に葬儀会社が用意してくれます。
仕事で着ていた制服や好きだったスポーツウエアなど、死装束の上から被せるように置いても構いません。
その他にも思い出の品を入れて構いませんが、火葬が主流となった現代は、燃やせる素材が副葬品の原則です。
現実的な話ですが、プラスチック製品などは高温で解けて骨に変色をきたすかもしれないので入れられません。
スプレー缶なども火葬場の時点で断られてしまうので気を付けましょう。
また、遺体は火葬までの約二日間を経てゆっくり腐敗します。
故人の好物であっても、水分の多い食料品などは避けましょう。
写真は燃える素材ですが、生きている方の写真を一緒に燃やすと一緒に引っ張られてしまうという言い伝えを気にする方もいます。
写真を入れる場合は、既に亡くなられている方に限りましょう。
まとめ
納棺という故人との最後の別れについてご紹介しました。
亡くなった日から火葬されるまでの約二日間、故人を美しい状態で保ってくれる納棺の儀です。
最後に見る顔となるため、悔いのない様に処置をしたいものです。