樹木葬とは
樹木葬とは、墓標が墓石から桜やモミジ、ハナミズキといった樹木に置き換わったタイプのお墓です。
個人墓のため継承の必要がないことや、費用が比較的安いことからも人気があります。
また、宗旨や宗派を問わず誰でも申し込むことができる墓地が多いことも特徴の1つです。
埋葬方法は土にそのまま遺骨を埋葬するケースと、骨壺に一定期間納めて収蔵した後に合祀されるケースがあります。
海外では「緑の埋葬」と呼ばれていて、樹木の多い北欧で早くから取り入れられている埋葬スタイルです。
現在は、アメリカやヨーロッパなどでも盛んに行われています。
樹木葬の歴史
人を対象とした樹木葬は、1999年岩手県一関市の祥雲寺(現:知勝院)が荒れた里山を再生する手段として日本で初めて取り入れました。
自然回帰の考え方や里山の環境再生、墓地に咲く花々や木々の美しさに共感する人が増え、樹木葬は日本でも急速に広がっていきました。
樹木葬のニーズの高まりに伴って、公営霊園として横浜市営墓地メモリアルグリーンが造られたり、都営霊園でも樹木葬が行われるようになったりと、都内でも気軽に樹木葬を選択できるようになりました。
また、現在は各所の寺院や霊園でも樹木葬を始めるところが増えており、寺院の庭を活用した「庭園型」や「花壇型」など様々なスタイルが登場しています。
樹木葬の種類
樹木葬には、「里山型」と「公園型」という2種類の様式があります。
「里山型」は自然に近い環境で、お寺や霊園が所有・管理する里山に埋葬するスタイルです。
四季折々の風景が楽しむことができますが、広大な土地が必要なために都心部からは離れたエリアにあることが多く、アクセスが不便な場合が多くなっています。
「公園型」は都市部に多く、区画整備された場所の一角に埋葬するスタイルです。
人工的に樹木や草花を植えて手入れをして綺麗に整っていることから、公園型と呼ばれています。都心部にある霊園などでも行っているため、アクセスの良い場所にあります。
散骨との違い
樹木葬は自然葬の1つですが、同じ自然葬である散骨とは異なります。
散骨は粉末状にした遺骨を海や山中で撒くものですが、樹木葬は許可の得られた場所(区画)に遺骨を埋葬します。
散骨した場合は遺骨がどこにいったのか分からず、お参りしてもどこで手を合わせるべきか迷ってしまいますが、樹木葬であればシンボルとなる木があるため、通常のお墓と同様に木の前で手を合わせてお墓参りすることができます。
どんな埋葬方法があるの?
樹木葬の埋葬方法には、「合祀タイプ」「共同埋葬タイプ」「個人埋葬タイプ」の3つがあります。
それぞれの埋葬方法の特徴について解説します。
合祀タイプ
シンボルとなる木の周囲に遺骨をまとめて埋葬する方法です。
他の人の遺骨と一緒にまとめて埋葬するため、管理費などの費用が安くすみます。
しかし、遺骨を粉骨して全て一箇所にまとめてしまうため、後から遺骨を取り出すことは不可能です。
改葬などで遺骨を取り出す必要がありそうな場合は、次に挙げる共同埋葬タイプを選ぶと良いでしょう。
共同埋葬タイプ
共同埋葬タイプとは、遺骨を骨壷から出さずにシンボルとなる木の周りに埋葬する方法です。
このタイプであれば、骨壷単位で管理されているため、埋葬後でも遺骨を取り出すことが可能です。
遺骨が混ざることがない分、合祀タイプよりも費用が高くなります。
個人埋葬タイプ
個人埋葬タイプとは、区画のあるシンボルとなる木1本につき1世帯ごと、または個人で埋葬するやり方です。
個々のスペースを確保するため費用は1番かかってしまいますが、通常のお墓と同様にお墓参りすることが可能です。
埋葬は骨壺に納めて埋める方法と、遺骨を粉砕して専用の容器または袋に詰めて埋める方法があります。
樹木葬のメリット
樹木葬には、環境に優しい、費用が安い、宗教宗派が不問という3つのメリットが挙げられます。
ここではそれぞれのメリットについて詳しく解説します。
環境に優しい
里山型の樹木葬であれば、土地を開発することなく、自然のまま墓地として活用することができます。
さらに、遺骨が土に還ることで肥料となって自然の摂理の輪に組み込まれることで、里山の保全に寄与することができます。
費用が安い
一般的なお墓を建てる場合の費用が平均159万円であるのに対し、樹木葬の場合は永代供養料を入れても平均50万円程度と、一般的なお墓に比べて費用が安いというメリットがあります。
埋葬方法によって費用は異なります。具体的な費用の目安は下記のとおりです。
・合祀:約5万円~20万円
・共同埋葬:約15万円~60万円
・個人埋葬:約20万円~80万円
一般的なお墓に比べて、樹木葬は省スペースな上に墓石代や設置工事費がかからないため安く済ませることができます。
また、管理費は年間8,000円~2万円程度と安く、合祀は管理費が掛からないケースがほとんどです。
管理は寺院・霊園側で行ってくれるので、墓石ほどメンテナンスや掃除をする手間が掛からないこともメリットでしょう。
宗教宗派が不問
樹木葬は自然に還ることがコンセプトのお墓なので、宗教宗派を問わず埋葬が可能です。
お寺が母体となっているところでも、檀家になる必要がないケースがほとんどです。
家族の中に宗教や宗派が異なる人がいる場合でも一緒の区画に入ることができます。
ただし、法要はお寺の宗派で執り行うといった条件が付く場合もるので、気になる方は事前に確認しておきましょう。
樹木葬のデメリット
樹木葬は、アクセスが悪い、お供え物が置けない場合がある、契約期間が決まっているという3つのデメリットが挙げられます。
ここではそれぞれのデメリットについて詳しく解説します。
アクセスが悪い
山の中に作られる里山型の場合、ほとんどが都心部から離れた場所にあるため、墓地に行くまでのアクセスが悪い場合があります。
中には車では途中までしか行けず、墓地まで徒歩という場合もあります。
参拝者が高齢になった時に、墓地までたどり着けないという可能性もあるでしょう。
無理なくお墓参りできる距離かどうか、アクセスの良さをふまえて霊園・墓地を慎重に選ぶようにしましょう。
お供え物が置けない場合がある
公園型の樹木葬の場合、基本的には通常のお墓と同じように御線香やお供え物を供えて手を合わせることが可能です。
一方、里山型の樹木葬の場合は、火災防止のため、ローソクや線香などの火を扱うことを禁止しているところが多く、花瓶が設置できないためお花も地面に置く形で手向けます。
どちらの場合でも、食べ物は必ず持ち帰るか管理者に食べてもらうかして処分します。
特に里山型の場合は、野生動物をおびき寄せてしまう恐れもあり、環境保全の観点からも食べ物の取り扱いには注意が必要です。
お供え物のルールは霊園や墓地によって異なるので、見学の際にルールを確認しておきましょう。
契約期間が決まっている
樹木葬は、契約期間が決まっている場合がほとんどです。
永代供養の場合でも十三回忌などの決まった年数までは骨壷に入れて管理し、その後は合祀をして遺骨を土に還すという方法を採ります。
さらに、永代供養は最終的に合祀するため、一契約期間が一代限りと決まっています。
お墓の継承が必要ない点はメリットではありますが、家族間でトラブルにならないためにも事前に話し合っておく必要があります。
霊園や墓地の契約期間や合祀のタイミングについて、契約前に確認することを忘れないようにしましょう。
樹木葬を選ぶ際の注意点
樹木葬を選ぶ際は、後になってトラブルにならないためにもいくつか注意すべき点があります。
ここでは、周囲の理解を得られるのが難しい、年月によって風景が変わる、埋葬後は遺骨を取り出すのが難しい、全てのお墓に個別に木が植えられるとは限らない、という4つのポイントについて解説します。
周囲の理解を得るのが難しい
樹木葬自体の人気が出始めているとはいえ、認知度はまだ低く、家族など周囲の理解を得ることが難しいことがあります。
また、樹木葬は通常のお墓と異な点がいくつかあるので、きちんと理解を得ておかないと、周囲から反対意見が出たり、後々トラブルになったりする可能性があります。
生前にインターネットサイトやパンフレットなどで樹木葬の説明をしたり、霊園や墓地に前もって案内したりして家族の理解を得ておきましょう。
年月によって風景が変わる
樹木は季節による変化や成長する楽しみもありますが、年月が経てば枯れてしまう可能性もあります。
5年後、10年後も同じ景色のままとは限りません。景観の変化も受け入れられるかどうか、よく検討しておきましょう。
埋葬後は遺骨を取り出すのが難しい
樹木葬は、埋葬方法によっては遺骨を他人の遺骨と合わせて合同墓などに埋葬(合祀)し、遺骨を土に還すことがあります。
遺骨を合祀した場合は他人の遺骨と混ざってしまうため、埋葬後に個別に遺骨を取り出すことは困難です。
お墓の改葬を考えている方は特に注意が必要です。
全てのお墓に個別に木が植えられるとは限らない
樹木葬というと、1つのお墓に対して1本の木が植えてあるイメージがありますが、近年は「墓石の代わりとして樹木を植えるスタイル」から「墓石が無く、墓地・霊園の周りに樹木や草花を植えるスタイル」に変化してきています。
霊園や墓地によっては、全てのお墓に対して個別にシンボルとなる木を植えていない可能性があるので、事前に現地を見学して、埋葬様式の確認を行うと良いでしょう。
まとめ
ここでは、樹木葬の基礎知識や選ぶ際の注意点、メリット・デメリットについて解説しました。
樹木葬は、墓石の部分が樹木に置き換わったものととらえるとイメージしやすいでしょう。
一般的なお墓と異なる点も多く、理解が得にくい場合もありますが、自然に還りたいという故人の要望を叶えるにはとても良い埋葬方法かもしれません。
埋葬の1つの手段として、検討してみてはいかがでしょうか。