生前葬とは
生前葬とは、生きている内に自分で行う自分の葬儀のことです。
人が急に亡くなってからバタバタと決める葬儀では、「思った通りの葬儀ができなかった」「納得のいく葬儀ではなかった」と不満が残ることもあり、自身が高齢になり死を近く感じると、意識がはっきりした内に自身で納得できる葬儀を執り行いたいと思う人が増えました。
著名人の生前葬の記録は明治頃からありますが、生前葬という言葉が一般にも認知されるようになったのは2000年頃からです。
多くは宗教儀式からは離れて、自身の思い出をスライドで見せたり、好きだった音楽を披露したりと、明るく華やかな内容となっています。
著名人の場合、自身の社会的活動の終止符のように行う場合が多く、一般の人の場合、病気で確実な死期を数年後に控えた方が特に考える傾向があるようです。
生前葬の流れ
自分で自由に采配できるのが生前葬なので、進行に決まりはありません。
しかしお世話になった大勢の方を接待する都合上、食膳の手配や進行が必要となり、ホテルのバンケットルームやレストランを貸し切りにして行われることが多いようです。
準備としては、まずは生前葬の案内状を発送して出欠をとり、参加人数に合わせて飲食の手配を完了させます。
当日はなぜ生前葬をするに至ったかの挨拶から始まり、自身の経歴をスライドや映像などで見せ、自伝本を配布する方もいらっしゃいます。
その後参加者何名かから、主催者との思い出をスピーチしてもらい、自身の好きだった音楽でカラオケ大会やダンス大会をするなど、通常の葬儀より明るく最後の時を楽しむ構成が多くみられます。
香典ではなく会費という名目で2万円前後を徴収し、参列者は表書きに「御花料」などと書くのが一般的です。
生前葬のメリット
生前に行う自分の葬儀のメリットとは何でしょうか?
家族の負担を減らせること、そして時間的制約のなさ、自由度の高さが挙げられます。以下、3つのポイントを解説します。
家族への負担を減らせる
通夜と葬儀は人が亡くなったその日から翌日にかけて、有無を言わさず慌ただしくやってきます。
悲しみに浸る間もなく、場合によっては業者に言われるままに祭壇や花を手配しなければなりません。
終わってから「もっと時間をかけて選びたかった」「納得のいく説明を聞けたら良かった」と遺族に思わせるくらいなら、自分の面倒を自分で済ませ、家族への負担と苦労を減らせることは先に逝く者として安心です。
時間的制約がない
慌ただしい葬儀と違って、何か月もかけて自分で納得の行く内容でパーティを主催できるのは、一般人の人生において結婚式以外では生前葬だけかもしれません。
案内状に凝ったり、見せるスライドに凝ったり、時間をかけて最後のセレモニーを準備できます。
長々と火葬の時間を待つ告別式と違い、参加者が集まりやすい週末の夜などに短時間でお開きにできる自由さもあります。
自由に楽しく行える
葬儀といえば喪服で悲しみに暮れるイメージですが、生前葬はお世話になった方に御礼や感謝を伝え、楽しいひと時を共有することが目的なので、非常に明るい会となります。
葬儀仏教と呼ばれて久しい、不透明な料金の読経やお布施にお金をかけるなら、明るく楽しいさよなら会を思う存分行えることは人によっては本望といえるでしょう。
生前葬のデメリット
自由な采配ができる生前葬は良いことだらけにも思えますが、デメリットは何があるでしょうか。
興味はあっても現実には思いとどまる理由とも重なる、3つの懸念点を以下で解説します。
二度手間になることが多い
遺族だけでなく周囲の残された者達の心情として、たとえ生前葬に参加していたとしても、人が亡くなった後には結局葬儀を行う可能性が高い。
これが生前葬の最も大きな懸念点です。
そうなった場合、費用は生前葬と葬儀で二度かかります。
家族への負担を減らせるというメリットがどうなるかは、死んだ後の家族の心境を鑑みなければ分かりません。
ちなみに生前葬ではありませんが、「自分が死んでも葬式はいらない」と遺言しすぐ火葬場に運ばれたのが明治時代の思想家、中江兆民です。
そうは言われても別れを惜しみたいという周囲の希望で、結局大規模な無宗教葬が後日行われ、これがセレモニーとしての「告別式」が日本で行われるきっかけとなりました。
故人が遺言しても残された者が葬儀を行ってしまう、一つの例です。
理解を得るのが難しい
まず家族を説き伏せることから困難な場合もあります。
さらに、招待状を受け取った周囲の知人や親族の方々も、どう出席して良いのか、楽しんで良いのか、不慣れなために戸惑います。
しかし、本当の葬儀も簡略化が進み、埋葬の仕方も火葬だけでなく散骨葬などと多様化している時代ですから、10年後には生前葬も当たり前に普及する時代がくるかもしれません。
自分本意な会になりがち
自身の人生を洗い出し、お世話になった方に感謝を伝えるといっても、「自分の総人生の披露」に終始しがちです。
共に過ごした思い出がある家族にとっては楽しいスライドかもしれませんが、仕事での付き合いだった方は参加の意義に戸惑うこともあります。
有名人ではない一個人の人生を振り返る会に、会費を払って参加する側の立場も考えて、エンターテインメント性も含んだ内容を考えると良いでしょう。
生前葬のプランニングを手伝ってくれるイベント会社もあるので、賢く利用するのも一つの手段です。
生前葬を行った著名人
・アントニオ猪木さん
元プロレスラー、実業家。
2017年、74歳の彼は両国国技館で行われた格闘技試合『INOKI ISM.2「生前葬」』と銘打ったイベントを行いました。
リングに白い棺が運ばれ、猪木さんは「千の風になって」をアカペラで歌いながら登場、棺の中から赤く光る玉を取り出して高々と挙げると、観客から歓声が沸きました。
・小椋佳さん
シンガーソングライター。
2000年に胃癌で胃の半分以上を切除し、2012年には肝炎で生死をさまよいました。
2014年、NHKホールで4日間連続の生前葬コンサートを開催しました。現在も存命です。
・安崎暁さん
実業家。
2017年に末期の癌を宣告されたことを受け、感謝の気持ちを伝えたいとして新聞に生前葬主催の広告を出しました。
都内の一流ホテルで「感謝の会」を開催し、6か月後の2018年5月に死去しました。
生前葬の費用の相場
上述したように、著名な実業家の規模と一般人では相場の比較はできませんが、最小限の葬儀・告別式が50万円前後のため、同額程度で開催するのが一般の方の相場といえるでしょう。
ただし自身の納得のいくように凝り出すと上限はないため、会費とプラスマイナスでどの程度の規模にするかが考えるポイントです。
まとめ
通常の葬儀が残された者達への慰めの儀式ならば、自身が心残りなくこの世を去れるための会が生前葬です。
いくら豪華なお葬式を出してもらったとしても、死んだ本人には分かりません。
二度手間になったとしても、自分が満喫できる生前葬という選択肢が、今後さらに広まるかもしれません。