無縁仏とは
まずは「供養」について簡単にご説明します。
葬儀や法事で行われる供養は、正確には「追善供養」と言います。日本における供養は、残された人の善行があの世にいる故人の善行となり、その行いはまた自分に返ってくる、という思想のもとに行われています。
毎日の読経や命日の法要、お墓参りが供養にあたります。
「無縁仏」は供養がなされず、天国に行けずにいる仏・霊のことです。仏教では、無縁仏として地獄に堕ちた人が天国に行くためには、生前の行いに関わらず五十回忌まで地獄で待たなければならないと言われています。
また、日本の民間信仰では、供養されずにこの世をさまよっている「死霊」「怨霊」「もののけ」のことを無縁仏と呼び、忌み嫌われていました。
現実的な意味としての無縁仏は、「管理する者がいない遺体・遺骨、お墓」のことを指します。現在の日本では、主に「放置され荒れ果てたお墓」と「身寄りの無い人の遺骨」を無縁仏と呼んでいます。
無縁仏になる主なケース
現在の日本で無縁仏となってしまう主なケースとして、「放置され荒れ果てたお墓」と「身寄りの無い人の遺骨」について解説します。
墓の管理者がいなくなる場合
お墓の承継者がいなくなり、管理と供養がされなくなったお墓は、やがて無縁仏になってしまいます。
お墓の管理をする承継者が不在になる原因のひとつが、少子高齢化社会です。
お墓には「名義人」が必要です。
お墓の名義人が死亡した場合には、お墓の管理者に名義変更届けを提出しなければなりません。
ところが、子供がいないためにお墓を承継できなかったり、子供がいても親子関係が疎遠なことを理由に承継することを拒否したりする事例があります。
お墓の承継者不在問題は、少子高齢化を原因とするものだけではありません。
転居に伴いお墓が遠くなることで管理が疎かになってしまったり、経済的な事情からお墓の管理費を支払えなくなってしまったり、さまざまな社会・経済的な理由で、無縁仏が全国に溢れ返っている状況です。
平成11年には「墓地、埋葬に関する法律」が改正され、一定期間放置されたお墓は無縁仏とみなし、寺院・霊園がお墓を撤去できるようになりました。
しかし、撤去には多額の費用がかかるため、荒れ果てたまま放置されてしまうことは少なくありません。
身寄りが無い人が亡くなった場合
身寄りがいないまま亡くなってしまった人の「孤独死」が無縁仏に繋がるケースが都市部を中心に増えています。
全国で3万人以上の身寄りのない方が亡くなられ、残念なことにその多くの方が無縁仏として葬られています。
都市部で孤独死が目立つのは、一人暮らしのご老人が多いことや、お年寄りを支える地域コミュニティが存在しないことなどが原因と考えられています。
引取人が現れずに亡くなってしまった人を「行旅死亡人(こうりょしぼうにん)」と呼び、「行旅病人及行旅死亡人取扱法」に基づき、行旅死亡人は地方自治体の手で火葬されます。
遺骨は行政が委託した寺院で一定期間祀られた後、無縁墓地に納められます。
この際、多くの遺骨を納めることはできず、納められるのは細かく砕かれた一部の遺骨のみで、他の大部分の遺骨は廃棄処分されることもあります。
そして、遺骨が納められる無縁墓地の多くは合祀墓(ごうし墓)です。合祀墓は不特定多数の遺骨をまとめて納骨しています。
そのため、合祀墓に納められた遺骨を後から引き取ることはほぼ不可能だと言えます。
無縁仏を回避するために
誰も望んで無縁仏になっている訳ではありません。祖先や自分が無縁仏にならないようにするにはどうすればよいのでしょうか。
以下では無縁仏を回避する方法を3つご紹介します。
お墓参りに定期的に行く
定期的に先祖のお墓参りに行くことは、無縁仏を回避するのはもちろんのこと、家族の在り方を確認するとても良い機会です。
お墓参りの際にお墓の周囲をきれいに清掃することは、供養のためだけではなく、寺院・霊園の管理者に無縁仏と勘違いされないようにするという目的があります。
転居などで定期的なお墓参りが難しい場合は、お墓の場所を移す「改葬」という方法があります。
実際に、改葬を行う多くの理由は「お墓が遠方のため管理維持が難しくなった」というものです。
改葬を行った場合、お墓参りに行く機会が増えるケースが大半です。お墓との関係を見直すことは、無縁仏になることを避ける方法のひとつです。
管理費を支払う
お墓の管理費は基本的に年に一度支払います。管理費は口座引き落としで支払うことが一般的です。
寺院・霊園によっては、法要の際に現金で支払ったりお寺の住職や檀家の代表者が集金したりと、支払い方法が異なる場合があるため注意が必要です。
お墓の承継者が決まっているのであれば、お墓の管理費と支払い方法もしっかりと引き継ぎ、管理費を滞納してお墓が無縁仏にならないようにしましょう。
永代供養や合葬を考える
永代供養は寺院・霊園にお墓の管理を委託する仕組みです。
間違えられやすいことの一つですが、管理と供養の期間は有限です。期間は五十回忌までやお寺の住職が存命の間など、寺院・霊園によって様々です。永代供養はお墓の管理の手間を省くことができますが、上記の点は留意しましょう。
永代供養の契約期間満了後は、遺骨をお墓から出し「合葬墓」に移すことが一般的です。契約期間満了後の遺骨管理を決めておかなければ、そのまま無縁仏となってしまうので注意が必要です。
「合葬」は他の人達の遺骨とともに埋葬するお墓です。合葬は身寄りのない人や経済的にお墓を建てることができない人、そしてお墓の承継者がいない人などに利用される機会が増えてきています。
まとめ
無縁仏は、宗教的価値観が薄れ、また希薄な人間関係が当たり前となってきた日本の大きな社会問題のひとつです。
そんな時代だからこそ、家族・親族で集まって祖先の思い出話をしながらお墓参りに行き、お墓のことを考えてみてはいかがでしょうか。