グリーフケアについて
欧米で発祥し、日本でも徐々に広がっているグリーフケア。
grief(グリーフ)とは、英語で悲しみ、嘆き、苦悩のことを指します。
主に人の死に際しての悲しみに使われる単語です。
悲嘆、心痛、と訳されることもあり、欧米ではグリーフケア、グリーフセラピー、グリーフワークなど、遺族のためのケア活動が盛んになってきています。
また、深かった悲しみを乗り越えた人をグリーフ・サバイバーと呼びます。
グリーフケアとは
グリーフケアとは「大切な対象(人やペットなど)を失った人への介入や支援」のことを指します。
大切な人を亡くした後、不調は心だけでなく肉体にも表れます。人が亡くなれば悲しいのは当たり前の感情ですが、それが深すぎて社会生活にまで影響を及ぼしている場合はケアが必要です。
親を亡くした子よりも、子を亡くした親に重症なグリーフが多い傾向にあります。
「悲しい」という現実と「立ち直らなければならない」という2つの感情の間で揺れ動く状態の方に対し、「その人がグリーフを乗り越えていくように支援する」のがグリーフケアです。
世界にも日本にも様々なグリーフケアの団体があり、人の悲しみが千差万別であるように、グリーフケアのやり方、支援の方法も団体によって様々です。
グリーフケアの歴史
そもそも宗教がグリーフケアの大きな役割を担っており、人はなぜ生まれ、なぜ死ぬのかの命題を解くのが神父や僧侶でした。
宗教を離れて悲しみに寄り添うことに特化した活動は1960年代のアメリカが発祥と言われ、その後欧州にも広まりました。
アメリカやイギリスでは、病床にあった身内が亡くなった後も遺族がその病院にしばらく通い続け、現状に即して医師やカウンセラーからアドバイスを受けるという遺族ケアが一般化しています。
ドイツ、オーストラリアなどの病院でも遺族の心のケアに積極的に取り組む活動が盛んで、そういったグリーフケア先進国の実例を学んだ日本の学者により、2000年代以降の日本にもグリーフケアの概念が導入され始めました。
2005年のJR福知山線脱線事故の際、突然身内を亡くした人々のケアのために、兵庫県の大学内にグリーフケアを研究する機関が設置されたことは全国的にも注目を浴びました。
かつての檀家寺や近所付き合いの中で互いをいたわる風習が希薄化し、その代替システムとして日本でもグリーフケアが必要とされています。
各地の病院内機関や市民グループが個別に立ち上がっており、徐々に日本全国にグリーフケアを行う活動が広まっています。
グリーフの症状
人の死に対しての悲嘆には様々な症状があります。
最初に来るのは「否認」と「孤独」です。
ショックが大きく、本当にあの人が死んだのか、と現実を疑う初期の状態です。
次に「怒り」です。何もなしえなかった自分自身への怒りや、医師などの第三者へ怒りを表してしまう状態です。
次に「取引」、死という変えようのない事実をなんとか変えようとし、「私を身代わりにしてください」などと運命に交渉をするような精神状態の段階です。
そして「抑うつ」、どうあがいても故人が戻らないと気持ちが引きこもってしまう状態で、日常生活の、食べる、眠る、笑うといったことなどに価値が見出しにくくなります。
そして「受容」、悲しみの暗闇の中で、ふと灯りに気づき、故人の死を受け入れ、新しい人生を歩もうとする段階です。
グリーフケアの方法
グリーフケアにはどんな方法があるのでしょう。
各病院や団体で様々な手法がありますが、ここではセレモニー、仏壇供養、個別相談の具体例をご紹介します。
セレモニーを行う
壮大な葬儀を行う、というのは、グリーフケアの王道の方法の一つです。
葬儀とは故人を送り出す儀式であると同時に、遺族の心を癒す効能を持ちます。
亡くなった直後の遺族は、訳もわからず言われるままに通夜や葬儀を行うことで、身体を動かし、僧侶の読経を聞き、本当にあの人は亡くなったのだと非日常の儀式を通じて体感していくのです。
昨今では家族葬も広まっていますが、グリーフケアの観点からは大勢の弔問客を迎える葬儀が効果的です。
多くの人が共に悲しんでくれた、多くの人に最期に挨拶をしてもらった、多くの人から故人の思い出話を聞けた、そういった体験が遺族の悲しみをやわらげ、また故人のための大きな儀式を最期に「やりきった」と味わわせてくれるため、遺族の心にとって一つの区切りとなります。
葬儀の後の四十九日や一周忌の法要を機会と捉えることもできます。
そこかのタイミングで多くの人に参列してもらってセレモニーを実施することは効果をもたらします。
お墓、仏壇を供養する
グリーフに陥った方は、故人の死に対して自分が何もできなかった、と自身の無力感に苛まれていることが多いので、お墓に定期的に通い墓石をきれいに掃除する、仏壇を整え毎日故人と話をする、という現時点の自分が故人に対しできる供養を課すことで、悲しみが和らぐことがあります。
また故人を忘れる必要はなく、いつも話しかけられる場があると認識することでも精神が落ち着く傾向があります。
思いを吐き出す
欧米に比べ日本では感情を露わにすることが控えられ、特に男性は悲しみの表現を遠慮しがちです。
しかし思いを吐露し受け止めてもらうだけで楽になることもあり、言葉にしにくくければ絵に書いたり故人への手紙を書いてみたりと様々な方法が存在します。
グリーフケアを専門とするカウンセラーも日本に増えてきています。
宗教の有無や違いに関わらず、残された遺族の悲しみに耳を傾け援助を行なってくれる「心の専門家」です。
「大切な人を失った時どのような気持ちでしたか?」という問いかけから始まり、遺族の方の不安や孤独感、怒り、不安といった気持ちに寄り添い、一緒に考えていく時間を提供してくれます。
「グリーフケア外来」「遺族ケア外来」などで検索すると、近くのカウンセラーを調べることができます。
また葬儀を行った業者やお寺に相談しても、グリーフケアの資格を持った方を紹介してもらえることがあります。
グリーフケアを学ぶ
前述したように、多くの病院内で「グリーフケア外来」「遺族ケア外来」の設置が望まれており、各団体が独自の認可制度、認定講座を開催しています。
現在の日本ではまだ国家的な認定制度がありませんので、民間のグリーフケアアドバイザー、グリーフケアカウンセラーなどの名称で認定を得ていることがひとつの信用になります。
例として医療従事者はもちろん、介護福祉士、葬儀会社職員、教員、ペット業者などにもプラスアルファとして求められる技能となっています。
全く無関係の職業の方でも、認定講座を受けてその団体のボランティアスタッフとして従事する道もあります。
自身がグリーフケアによって立ち直ったので他の人のお役にも立ちたい、と認定講座を受ける人もいて、これからニーズが高まる技能と思われます。
グリーフケアの注意点
専門家でない人がグリーフケアをする場合、その人が立ち直ることを強要しないように注意しましょう。
いつかは立ち直るためのグリーフケアですが、そこに至るまでの過程と期間には個人差があり、深く落ち込んでいても一か月で改善する人もいれば、三周忌まで引きずる人もいます。
「頑張って」「元気を出して」といった言葉は禁句で、当人自身が頑張りたくても頑張れない、元気を出したくても出せない状態で苦しんでいるので、代わりに「いくらでも泣いていい」「悲しくて当たりまえ」と、悲しむことを許す言葉をかけてあげましょう。
「悲しみを共有して聞いてもらえる人がいる」と感じてもらうことが大切です。
まとめ
葬儀という決まり切った儀式が、人の心に作用する効能は大きいものです。
自身の悲しみを軽視せず、きちんと向き合い乗り越えるためにも良い葬儀を行い、それでも感じる辛さにはきちんと寄り添ってケアをしてあげましょう。
日本でもグリーフケアが一般的に広まり、遺族が健やかな日々を送れることを故人も願っていることでしょう。